2021.11.07

テレワークがメンタル不調者を増やしている、は表層的な捉え方。

今回のブログではここ直近自分の中のテーマになっている「メンタルヘルスマネジメント」について、ここ2-3週間でいろいろ考えたこと、まとめたこと、そして取り組んでいることを書こうと思う。
 
きっかけは10月20日に実施した私的経営者勉強会。
2020年4月以来、3か月に1回行っている未来型ワーク企業経営者勉強会の直近10月のテーマとして「DHBR バーンアウトの処方箋」を参考図書として取り上げてみようと思ったことからだ。
 
※今回の勉強会メンバー
 
 
バーンアウトはメンタルヘルスに関わるトラブルの数あるうちの一つの種類だと思うので、もう少し全般的にメンタルヘルスに関わる理解と自分なりの解釈づくりに取り組みたいと思って勉強会での冒頭投げ込みスライドをまとめてみた。
 
 
 
 
このテーマに関しての僕の課題意識は以下の4点だ。
 
●自社組織内でも外の組織においても、メンタルヘルスに関わるインシデントが増加している気がする。
●私たち経営者自身が自分のメンタルヘルス・セルフマネジメント力をつけることも重要だと思う。
●組織開発・人材育成設計に“意図した”メンタルヘルスマネジメントを埋める必要性を感じている。
●感情先行者のパフォーマンス上下をマネージすることに奪われるマネージャーの負荷はかなり大きく、組織全体としてこの問題に取り組む必要性がある。
 
 
このメンタルのテーマを医療的アプローチに頼りすぎたり、そちらの問題だと設定しまうのは、マネジメントの怠慢だと考えており、正面から向き合ってみようということです。
 
 
僕の仮説では、ここ数年で働く人を取り巻く環境変化がこれまでの人類史上において初めてのスピード感で変化をしており、その変化が働く人に要求することを変えているが、そのことに無自覚である人が多く、それにうまく適応できずにメンタルに強い負荷がかかっていると推測している。
 
以下に5つの山(5つの大きな変化)を提示してみたい。
NOKIOO自身も2016年頃以降に働き方、組織の在り方、ビジネスモデルの変革を行ってきていて、その間にいろんな出来事を目にし、自分自身も含めたメンバーに対して具体的に起きてきた事象や反応を紐解いてみると、この5つの山としてまとめられるのではないかと考えたのである。
 
 
 
 
デジタルツールベースのコミュニケーション
これにより働く人に起きていることは、テキスト(文書)によるコミュニケーションと、いつでもつながれる(切ることが難しい)状態である。
考えていることを文書に落とす文書化スキルや、上手な発信の仕方(頻度やタイミング、発信内容によりツール・手段の使い分け)が求められたり、相手側の発信を読み解いたり、レスに対する受け止め力(そのレスは批判ではなく意見として捉える力、フィードバックへの胆力など)などが求められるようになっていると思う。
NOKIOOは創業時の2011年からデジタルツールベースのコミュニケーションを取ってきたため、そのスタイルを取り始めた当初は自分自身もこれに苦労し、伝わらないもどかしさや一定期間反応がないことに対してストレスを感じるようなことを経験してきたことを思い出す。
 
コンピューター処理能力の向上/業務処理のデジタル化
業務の中にIT/デジタルツールが一気に入ってきて、使っているクラウドツールもAPI連携され、どんどん処理速度が速くなっていく。一方で人的処理業務も残るわけで、「考える」「ITへのインプット情報を作る」といった人的処理業務のスピード感も、全体としてスピードの高まっている業務スピードに合わせることを知らず知らずのうちに起きている。
例えば数年前まではマーケティングイベント実施という業務があった時に、会場を抑えて、集客用リーフレット印刷事業者に発注し刷って、見込み顧客リストに郵送して、会場設営して…という物理的なものをつないでいくやり方だったから数か月前から準備が始めるのが当たり前で、その時間感覚だったものが、今は2週間後にウェビナーイベントにしよう、ZOOMウェビナー予約して、MAツールでイベントページを作って、リードリストにメール配信し、申し込みがあればMAツールで管理され、遠方にいるイベント登壇者とも明日にでもTeamsミーティングで打ち合わせれば、最短で2週間後にできるね。という時間感覚だ。
多くの業務をIT・ツールが高速処理してくれるが、処理をさせる元の企画や文書、クリエイティブは人が考えてアウトプットするものだから、この2週間のうちに一気にアウトプットが求められる。
こうした環境下で知らず知らずのうちに、期日・納期に追われ、アウトプット要求に追われる感覚がメンタル面に強い負荷をかけているのではないか?という仮説である。
一方でこのスピード感で仕事が進むのが気持ちいい!感激!素晴らしい!とも当然思ってはいるのであるが。
 
デジタルサービス化・無形価値へのシフト
モノを扱うビジネスから、体験に価値のあるサービスやデジタルサービスなどの無形価値がビジネスにおいて価値を形成している時代に変化する中で、扱っているものが目に見えない顧客体験価値などに移っているため、UX理解力、デジタルサービスユーザー感覚、共感力(EQ)などが求められるようになってきた。
業務を行うメンバー間で議論をしながら、この辺の感覚的なことを共有し認識合わせをするというのも、モノを中心に扱ってきた働く人にとって「言われていることが分からない」「伝わらない」「イメージできない」という感覚を持たせ、ストレスになっているのではないか?という仮説。
 
リモートワーク・在宅ワーク と トランスフォーメーション(DX、CX、ビジネスモデル)
詳細説明は割愛するが、以下のスライドのキーワードを見ていただければ、同じ切り口で働く人に起こっていること、働く人への要求、メンタルへの影響という観点で環境変化を認識してもらえると思う。
 
 
 
ということで、これら5つの山が急に働く人の目の前に来ているのだが、その山自体の全体像は目に入らず、知らず知らずのうちにこの山の上り坂を登っている状態なものだから、何でこんなに息切れするのだろう?メンタルがしんどいのだろう?ということが分からないまま、潜在的不調者と顕在化してしまった人が増えているのだと思う。
 
 
僕が大事だと思うのは、働く個々人がこの環境変化をとらえて何が自分に対して起きているのかを自覚しておくことがまずスタートとして大事だと思っていて、起きていることが自覚できればそれに対しての対処もしていけるのではないかと思っている。
 
 
僕のプレゼンテーションでは、これらの状況に対して「対処の3つの方向性」ということで提案をいれたが、そのうちの1つ目は、働く個々人が平時からこうした変化に対して対処できる思考スキルを身に着けておくことで、個人に対するトレーニング・スキルアップによって、様々な変動するビジネス上の課題への対処力、チームワークしてくために必要なスキルを習得させることでメンタルヘルスに難しい局面を超えさせる備えをすることが大事だと思っている。
 
例えば、キャリア研修で個人のミッション感を高めること。
DHBRではこんな箇所がそれに該当すると思う。
 
「目的意識が仕事での燃え尽きを防ぐ」。実際、目的意識が強いほど燃え尽き傾向は低かった。「強い目的意識をもって仕事をしている」と感じる人々の25%は、直近の3か月間、燃え尽き傾向とまったく無縁だった。(自己申告とMBI-GS、両方の結果による)(引用)
 
 
例えば、ロジカルシンキング力を鍛え、「悩む」モードから「考える」モードへ転換する力をつけておくこと。物事をモヤモヤととらえるのではなく、思考するステップや筋道が自分で建てられるだけで心理的プレッシャーはずいぶん違うのではないかと思う。
 
そしてNOKIOOのサービスでも展開している「ヘルプシーキングスキル」。
助け合い、チームで成果を出すための関係性づくりをしていくのは立派なビジネススキルであり、独りで抱え込み、何とかしようでは個人もしんどいし、個人がつぶれてしまうことはチームとしても本来目的達成ができなくなってしまう。
 
 
 
 
残り2つの対処の方向性として提示した内容は割愛するが、これらの議論を社内に持ち帰り、現在NOKIOOにおいては組織マネジメントしてメンバーのメンタルコンディション作りどう取り組むか、メンバーを預かるリーダーのリーダーシップスキルのアップデートやや組織マネジメントスキームの観点からどういう取り組みが必要かを議論している状況である。
 
 
 
実は僕自身のことで言うと、2018年8月に大けがをして全治6ヶ月、今後は正常に歩けるかどうかも分からないという状態になったことがある。この時は、けがをする少し前から自分でもメンタルコンディションがおかしい気がするな、と感じてはいたが、何がどうなっているのかは分からなかった。おそらく会社でも既存事業のやり方を変革し始めの時期、新規事業の芽が出始め既存事業マネジメントとは異なる思考スタイルが必要とされていて、その両スタイルの使い分けが上手くできず、不調を起こしていたのではないかと思う。(トランスフォーメーション不適合型)
 
 
今後特にこういうことは、メンバーが1プレーヤーから組織内リーダーやミドルレイヤーにステップアップする過程においても、実は使う思考力やモノの考え方が大きく変わるタイミングで、その変体を意図して儀式的にやらねばならないのでは?と思っている。
 
自分が戦っている場のルールは、これまで自分が戦ってきた場所のルールと変わっているわけなので新しいルールの下で戦わないとうまくいかないぞ、ということ。その新しいルールというのはおおよそこういうことで、そのルール下ではこれまでの例えばこういうモノの考え方や通じない、とか。そういう意識の切り替えだろうか。アンラーンするものとラーンするものを意識下に置くような儀式。
 
職場でメンタル不調を抱える人の統計データで行くと30代の人材が他の世代の人材に比べて多いとされている。この辺も組織内で1段ステップをあげて役割を担い、かつプライベートでも結婚・出産・子育て・住まいの変化などの環境変化がある中でこの時期が難しいようだ。
 
高い目標を掲げ、プラス方向に達成していく活動には目が向けられそのためのスキル習得や目標管理に力が注がれるが、それを実現するためにもベースであるメンタルコンディションの維持や耐久力を高めることがますます重要になってきそうだ。
DX/CXの波はこれからがもっと大きくなるわけで。
 
 
  • NOKIOO
  • 小川健三