ワークスタイルブログ

ワークスタイルブログ

2020.01.23

ミライの働き方2019〜企業価値を高める本当の働き方改革〜事例発表と講評レポート

2019年11月26日(火)、あいホール(浜松市男女共同参画・文化芸術活動推進センター)にて、「ミライの働き方2019~企業価値を高める本当の働き方改革~(以下、「ミライの働き方2019」)」を開催しました。

「ミライの働き方2019」は、浜松市が主催する「ワーク・ライフ・バランス等推進プロジェクト」の一環です。組織開発やワークスタイルの専門家である沢渡あまねさんを講師に招き、実践的な働き方改革の手法を学ぶ、全5回の研修プログラムとなっています。

第5回は、「職場の問題改善 事例発表と講評」と題し、事例発表会を開催。浜松市内の3つの企業様に取組事例を発表していただき、沢渡あまねさんに講評をいただきました。

本レポートでは、事例発表会の内容をお伝えしていきます。

 

1.会社紹介、課題

さっそく3社様に会社紹介、課題に対する取組をご紹介いただきました。

 

<常盤工業株式会社(以下、「常盤工業」)>

常盤工業は、従業員数約80名の総合建設業です。学校、病院、オフィスなどの建築事業や道路舗装などの社会インフラ整備を手がけています。

常盤工業では新社屋の建設を予定しており、それを機に環境にとらわれないICTを活用したフレキシブルな働き方の実現をめざしているとのこと。

時間外労働・休日出勤の削減、社内外との情報共有、慣習的業務の合理化、人材をつなぎとめるための魅力づくり、優秀な人材の確保、建築技術のIT化を課題として捉えた取組を紹介します。

①ペーパーレス化に向けてのペーパーストックレス化運動

会議資料のペーパーレス化や保存書類の電子化、承認ワークフローへの移行を実施しました。部署によっては協力業者様との会議もクラウドを活用することでペーパーレス化し、テスト運用しています。ペーパーレス化によって、会議資料配布のための資料作成に費やす時間や紙利用の削減につながっています。

②アナデジ5S 活動 (アナログとデジタルの5S活動)

アナログとしては、現状維持書類や必要書類の電子化、不要書類の廃棄を実施し、すっきりした環境を整えました。これは、仕事の効率化につながり、また、場所にとらわれない働き方を行う第一歩にもなりました。

デジタルとしては、データのファイル名や保存先のルール化をしました。これにより、共有データの散在を防ぎ、データを常に最新版で保つことができます。また、業務の属人化回避にもつながります。

③クリアデスク・クリアスクリーンの推進

2週間ごとに「アナデジパトロール」と称し、退社時の社内パトロールを実施しています。パトロール報告をYammer(※)にて全社配信し共有することで、全社に浸透させ、個々人の意識改革につながるよう工夫しています。

※Yammerとは|Office365のアプリ。記事投稿、返信、グループ作成等の機能がある企業内向けのSNS

 

<株式会社フジヤマ(以下、「フジヤマ」)>

フジヤマは、建設コンサルタントとして、道路・橋・堤防等のインフラ整備において、計画・調査・設計・管理運営に関わる技術的なコンサルティングを行っています。現在、従業員数は323名です。

フジヤマでは外部環境、内部環境ともにさまざまな変化がありました。

まず、外部環境の変化としては、「公共事業の品質確保促進に関する法律」の改正による発注側の責務の強化、業界全体での時間外削減の推進、災害対応業務の追加が挙げられます。

次に、内部環境としては、人事評価で時間外労働の項目を追加し、不必要な残業をした場合には取組姿勢でマイナス評価とするようになったこと。また、3年間で45名の人員増加や、RPA専門資格保有者の採用、基幹システムの更新やWeb会議システムの導入などの変化がありました。

RPAとは、Robotic Process Automation (ロボティック・プロセス・オートメーション)の略で、PCなどを用いて行っている事務作業を「ソフトウェアロボット」が代行・自動化することです。RPAの導入により、業務の質の向上と従業員の作業時間の削減が期待されています。

静岡県の入札公告情報の収集や、電子入札の入力、受注実績作成、橋梁点検調書作成(国土交通省様式)をRPA化した結果、時間の削減効果は年間3800時間にものぼり、各業務とも質の向上が見られました。

 

<株式会社ヤマハビジネスサポート(※)(以下、「ヤマハビジネスサポート」)>

ヤマハビジネスサポートの事業は、ヤマハとヤマハのグループ会社の業務を集約して行うシェアードサービス事業で、従業員数は約600名。「健康経営、子育て支援、女性活躍推進」の3本柱で、働きやすく、やりがいのある職場づくりを目指しています。

背景として、2012年頃からヤマハ株式会社内にあった人事や経理、総務等の機能を順次取り込み、ここ7年間で社員数が3倍に増える等、急速に拡大してきたことがあります。特に、2013年から2015年にかけてはヤマハグループの大規模な組織変更も重なり、従業員の繁忙感が高まったそうです。そのため、2015年下期から本格的にWLB推進の取組を始めました。

職場の課題について経営層が従業員と直接会話する機会を設けたあと、RPA活用も含む業務改善、意識改革のための啓発活動等に取り組んだ結果、昨年度は2015年と比較して時間外労働時間の平均を18%削減、年次有給休暇の取得が15%増加と、ヤマハグループ内でもWLBが進んでいる会社になりました。

真の「働き方改革」とは、単に残業時間を減らすことではなく、従業員一人一人がリスペクトされ、仕事にやりがいを感じ、毎日ワクワクと仕事に取組んでいる状態になること。WLB推進の取組も軌道に乗り、ようやく「働き方改革」のベースが整ったと感じています。

一方、現状ではヤマハ株式会社から業務移管と共に出向して来た社員が半数を占めていますが、出向者からバトンを引き継ぎ、ヤマハビジネスサポート従業員の中から早期にリーダー・管理職層を育成していく必要性を感じています。

そのため、先期は教育体系を整備し、従業員の成長意欲・向上心を後押しする仕組み作りに取り組みました。今期は女性活躍推進委員会を立ち上げ、次期リーダー候補者である従業員に「自ら組織をリードして行く」という意識を持たせる施策を行っています。「社員がイキイキと働く会社」について意見を交わし、それを指数として数値化し、更にその指数を上げるための提言まとめをすることで、会社の成長を担うのは自分自身だという意識醸成を図っています。

※ヤマハビジネスサポートは、令和2年1月1日より社名を変更し、「株式会社ヤマハコーポレートサービス」となっている。

 

2.今後の取組

3社様には、今後の取組についてもお話しいただきました。

<常盤工業>

今回の事業を通して、「健全な組織のバリューサイクル」(※)を回すことで、従業員一人一人からチーム、会社に至るまで、すべての価値を高めるということ、それによる相乗効果で、全従業員の幸福を実現することができるということを実感しました。また、バリューサイクルを回すためにはコミュニケーションは必要不可欠で、改善や改革をするにあたって組織内に必要な「自社の勝ちパターン」を見出すために必要な「言える化」「見える化」が働き方改革の基本であり重要だと改めて感じました。今回のこの事業に参加されていたさまざまな企業様との交流により、取組や課題、悩みの共有をさせていただき、一喜一憂しました。外を知ることが大事だという沢渡さんの言葉を実感しました。

建築業界は残業や休日出勤が多く、労働時間が長い傾向があります。今後もデジタルトランスフォーメーション(DX)(※)に取り組み、浜松市の建設業として働き方改革のリーディングカンパニーをめざします。

※1 バリューサイクルとは|

組織の価値を高めるブランディング手法。組織の価値を見出し、内外にファンを生み出す仕組みのこと。詳しくは、講演会取材記事後編「4.これからの時代のマネジメント」で解説。

※2デジタルトランスフォーメーション(DX)とは|

既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすもの。企業においては、データやテクノロジーを駆使しながら、新たなニーズの発掘や業務の効率化を行う仕組みの開発。

 

<フジヤマ>

今回の研修に参加してとにかく事例や手法、考え方を「パクる」ことを実践しました。さっそくABD(※)はパクって、社内で実施しました。

今後もRPAに触れること、RPAの有効性の理解してもらうことで、業務改善意識を醸成します。

また、現状は手作業をそのままRPA化していますが、将来的には業務プロセスの洗い出し、前後業務との関連確認、業務の要否確認といった業務見直しを実施予定です。事前設計で各部の負担は大きくなりますが、さらに大きな効果が期待できます。

そのほか他システムとの連携として、OCR(紙→データ化)の導入により紙媒体の集計業務を、音声テキスト化の導入により議事録作成を、スケジューラとの連携により各種お知らせをRPA化することを考えています。

※ABDとは|アクティブ・ブック・ダイアログの略。1冊の書籍を分担して読み、内容を要約し発表することで、要約力・プレゼン力・対話力などのビジネススキルを磨きながら、内容を理解し深めるというもの。詳しくは「研修レポートVol.3」参照

 

<ヤマハビジネスサポート>

今回の事業で、沢渡さんの講義にあった「マネジャーの仕事はチームに能力と余力、協力を作ること」という言葉が印象に残っています。例えば部下の業務負荷を考慮して、マネジャー自らが仕事を抱え込んでしまうと、部下の成長を阻害することになります。余力を生み出す為には、やらない事・捨てるルールを決める事が重要で、必要なリソースの調達や、部外・社外の協力を取り付けるのは、マネジャーにしか出来ない仕事だとあらためて認識しました。

目に見える書類は棚が一杯になるので、処分や整理のトリガーを引きやすいですが、今後に向け、データについても破棄ルールを決め、欲しいデータをすぐに探せるよう断捨離を始めています。個人情報管理の点でも、データの整理は重要。一方、部内で共有すべきデータは個人ドライブから共有ドライブに移し、メンバーの業務効率UPに繋げています。

メンバーの余力を作り、より付加価値の高い仕事に時間を割けるようにする為には、マネジャーが部下の状態を把握し、状況に応じたサポートをする必要があります。ヤマハグループで行っている管理職向け研修の学びも活かしながら、社員の成長を後押ししたいと考えています。

 

3.講評

3社様の発表のあと、沢渡さんより各社の講評をいただきました。

<常盤工業>

環境が変化するときは、新しいことにチャレンジする大義名分を得られるチャンスです。新社屋移転という環境変化をきちんとチャレンジのきっかけにしている点が素晴らしいです。

「アナデジ5S」は、まず名前がいいですね。親しみやすいネーミングで、社内に活動に対するファンを増やすことは大切です。

建築業界はIT化が遅れている業界だから、それはチャンスだと考えてください。私は、建築業界でVRを導入してコスト削減、効率化に成功した例を知っています。ぜひ、このままペーパーレスを進めていってください。

クリアデスク・クリアスクリーンを推進する取組では、デスクの書類を片付けたことで「仕事している感」が脱却できたのがよかったと思います。また、快感設計、成長設計をすると取組が持続するので、Yammerでの共有することもとてもいいですね。

 

<フジヤマ>

RPAで解決できる課題は結構あって、RPAの有識者を採用して取り組んだことがよかったですね。Iターン、Uターンをして、地方で働きたいITエンジニアは結構いると思うので、その方たちを採用するのはいい方法だと思います。RPAでは、周囲の同意を得て、やめる業務を決定する「業務の終活」が重要です。また、削減できた時間をどう活用するかということも考えていく必要があると思います。新しいものを取り入れるときは反対の声もあると思うので、小さな成功事例に光を当てていくことも重要です。

RPAの勉強会コミュニティは地方でもできつつあって、ぼくの知っているところだと静岡県中部にあるのでぜひ参加されてみてはいかがでしょうか。

 

<ヤマハビジネスサポート>

中規模以上の会社では、業務プロセスの整理・標準化がとても重要です。そこにまず取り組んだのがよかったですね。また、WLB推進にあたって、外部講師を招聘し、第三者を交えたのがよかったと思います。社内では公にしづらい「もやもや」を第三者に代弁してもらうことによって、社内世論を形成することができます。

取組の姿勢として、人事施策の範疇にとどめずに、「正しく成長できるか」という従業員の成長欲求にマネージャーが向き合うことが大切です。従業員それぞれが「自分たちのテーマ」と考えるようになりつつあるのが感じられました。

講評のあと、沢渡さんは地方の状況についてお話しされました。「東京に比べるとやはり地方は、働き方にしてもIT化にしても遅れています。ただそれはチャンスだとも思っています。私は浜松市に期待しています!ぜひみなさん浜松市から変えていきましょう!」と熱く語られ、拍手をもって、事例発表会は終了となりました。

 

参加者の声

・他社様の事例が聞けたので参考になりました。

・働く環境改革へのキーワードをたくさんいただけて、満腹です。

・現在取り組んでいるRPA への壁を感じていましたが、小さな成功を周りにアピールすることで、理解、協力を得られるという事例に、勇気づけられました。

・IT化への不安が強かったですが、お話を伺って、迅速に進めていく必要があることを認識しました。 アナログな部分が大半な職場なので、まずは業務の洗い出しをして、不要な業務を削減できたらと思っております。

 

全5回にわたって開催してきました「ミライの働き方2019」は事例発表会をもって無事終了となりました。

「ミライの働き方2019」が、みなさまが働き方改革を企業価値と人材育成につなげていくための一歩になれば嬉しく思います。

  • NOKIOO