2019.09.28
【前編】"本当の"働き方改革を学ぼう「ミライの働き方2019」セミナーレポート
2019年8月20日(火)、あいホール(浜松市男女共同参画・文化芸術活動推進センター)にて、「ミライの働き方2019~企業価値を高める本当の働き方改革~(以下、「ミライの働き方2019」)」を開催しました。
「ミライの働き方2019」は、浜松市が主催する「ワーク・ライフ・バランス等推進プロジェクト」の一環です。組織開発やワークスタイルの専門家である沢渡 あまね さんを講師に招き、実践的な働き方改革の手法を学ぶ、全5回の研修プログラムとなっています。
第1回は「企業価値を高める本当の働き方改革~働き方改革“ごっこ”からの脱却~」をテーマに沢渡さんが登壇。43名の参加者に向けて、組織力を高める業務改善のポイントや働き方改革のための実践的な手法が語られました。
本レポートでは、2部にわたり当日の講義内容をお伝えします。
講師プロフィール│沢渡 あまね
1975年生まれ。あまねキャリア工房代表、株式会社なないろのはな取締役。業務プロセスおよびオフィスコミュニケーション改善士。 日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社などを経て2014年秋より現業。全国の企業・自治体・官公庁向けに、コミュニケーションを軸にした働き方改革、組織活性、業務プロセス改善の講演・コンサル・執筆などを行っている。
著書:『職場の問題かるた』『問題地図』シリーズ(技術評論社)、『働く人改革』(インプレス)ほか多数。
はじめに ー 働き方改革というビッグワードがもたらす弊害
「働き方改革を推進しなければならない、でも、何をどう進めていけば良いの?」そのように悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
「そうなるのも当然なんです」と、沢渡さんは開口一番に言いました。
「なぜなら、働き方改革という言葉はビッグワードだからです。そのまま現場(※)に落としても、現場の人は自分ごととして捉えられません。そうして、旧態依然のマネジメントが続いていきます」
そんな中、全国には、組織を中から改革し、働く人のモチベーションを高めている企業や自治体がたくさん存在するとのこと。例えば、約40%にのぼる離職率を10%にまで下げた成功例があるそうです。
「働き方改革に成功している企業の中には、100名規模の企業やネジ工場、福井県の老舗旅館もあります。都市部か地方かはもちろん、業種も関係ありません。
働き方改革というビッグワードを噛み砕いて理解して、自分たちの現場にどう置き換えていくか。それを今日は考えていきたいと思います」
※現場とは|
ここでは、日常業務のほとんどが行われている単位を指す。目安として、課単位以下の組織。
企業価値を高める働き方改革、成功に必要な3つの要素
全国で働き方改革の推進を支援するにつれ、沢渡さんはあることに気付きます。それは、本当の働き方改革に成功している組織には「3つの共通点」があるということでした。
まずは、こちらの2点。
・見える化
・言える化
「見える化」とは、活動の実態を客観的、具体的に把握できるようにすることです。
トヨタ式「カイゼン」やITツールなど、一般的に優れているとされる手法を取り入れても、それが組織に合った手法でなければ、かえってムダが増えてしまいます。
現場のムダを「言える化」するために、経営層と社員との対話会もよく開かれています。しかし、社員はなかなか本音を言えないもの。社員の本音を聞けないまま改善をしても、望まれない結果になってしまいます。
そこで、重要なのが3つ目の要素。
・自分の勝ちパターンを認識して実践する
「組織も社員も成長する働き方に変わった組織は、自分の勝ちパターンを見つけられた組織なんです。見える化と言える化を繰り返し、改善策を試していくことが大切です。
また、組織には、専門性の異なるさまざまな職種があります。メンバーの世代や特技、価値観、国籍などによっても、心地良いやり方が違います。部署や職種ごとにも勝ちパターンがあります。
組織は生き物です。つねに勝ちパターンを認識して、実践するようにしましょう」
1.日本の職場に住まう妖怪
ここからは、具体的な働き方改革の手法を学んでいきます。「職場の問題かるた(※)」を使って、職場にひそむさまざまな課題と向き合っていきました。
※「職場の問題かるた」というコミュニケーションの仕掛け
現場レベルの「言える化」「見える化」が大切だとは分かっても、何らかの手助けがなければ取り組めないという組織も多いのではないでしょうか。そこで、2年前に沢渡さんが考案したのが「職場の問題かるた」というコミュニケーションツールです。
かるたの札には、さまざまな職場の問題が書かれています。札を選んだり読み上げたりすることで、その人が抱えているモヤモヤを「言える化」できます。
「職場には、みなさんの生産性を下げる2種類の妖怪がひそんでいます。その名も、妖怪“モヤモヤ”と妖怪“常識”です。中でも、厄介なのは、妖怪モヤモヤなんですね。例えば……」
・も 目的が見えない
・よ 予定が見えない
・お 終わりが見えない
・だ 誰が何が得意なのか見えない
・き 決めない
会場の全員がうなずく中、それぞれの妖怪についての解説が続きます。
・目的が見えない
メンバー間に意識のズレを生む原因です。目的が見えないために、部下は悪気なくやりすぎてしまったたり、逆に手を抜いてしまったり。上司は「何でやっていないの?/そこまでやらなくていいのに」という評価をしてしまいます。
・予定が見えない
例えば、上司の予定が分からなければ、部下は報告・連絡・相談のタイミングを掴めません。「とりあえず残業して待っていよう」という判断につながるかもしれません。
・終わりが見えない
社内や顧客、取引先それぞれの事情で、スケジュールを伸ばさざるを得ない状況は発生するものです。ただし、スケジュールの延長を繰り返していくのは、足に重りがついているようなもの。どんなにやる気のあったメンバーでも、意欲を失ってしまいます。
・誰が何が得意なのか見えない
苦手な仕事を、悪気なく他者に振ってしまうことがあります。振られた方も一人で悩んでしまう。社内だけでなく、社外でそれをやってしまうこともあります。仕事の振り方は、お互いの信頼関係に影響してしまいます。
・決めない
事案が検討されているかすら分からないという状況です。いつまでも決裁が下りないので、チームメンバーはどのような心積もりでいれば良いのか分かりません。
以上のような妖怪モヤモヤは、ムダな忖度や先走り、準備不足、思考停止といった弊害を生んでいます。
ディスカッション!「職場でモチベーションを下げている妖怪モヤモヤ」とは?
ここで一度、2~3人が1チームとなり「妖怪モヤモヤ」について2分間話し合ってみました。会場は、大盛り上がり!共感の嵐です。
「たった2分の時間を取っただけで、自分たちのモヤモヤを少し言語化できたと思いませんか?違う企業の人同士だったから、意見を言いやすかったということもあると思います。これをダイバーシティと言いますね。さらには、コラボレーションと言うんです。ダイバーシティとコラボレーションは、課題解決に繋がるんですよ」
「言える化」「見える化」にとって大事な2つの要素があります。
・隙(スキ)
・きっかけ
「相談や提案がしやすい隙やきっかけを作るということです。少し仕事の手を止めて、疑問に思っていることを人に言えるゆとりが必要ですね。徹底した残業削減など、偏った働き方改革を進めると、この隙がなくなってしまうこともあります」
働き方改革を現場に落とし込むために
「働き方改革」という言葉は、パソコンのフォルダ構成で言うならば一番上。もっと噛み砕いて、現場レベルの課題に落とし込んでいく必要があります。
「働き方改革」を、階層別に噛み砕いてみましょう。まず、第一階層は、企業の経営層。経営層の課題は何かというと「ビジネスモデルを変えること」かもしれません。そのために、全社の方向性を定めるテーマが必要になります。
経営層の次に、部門長クラスがあったとしましょう。その階層には「人材がいなくて困っている」という課題があるかもしれません。ビジネスモデルの変革を進めるためには、人材確保が必要です。
中間管理職クラスは、また違う課題を持っています。「優秀な人材に来てもらうために、生産性を上げたい」とか「コミュニケーションの質を良くしたい」かもしれません。これを、現場に落とし込もうとしたときに「そんなことより、仕事の手戻りを何とかして!」という、本音に辿りつきます。
「お気づきのとおり『働き方改革』の最低単位は現場です。『働き方改革』の推進も、現場というリアリティの世界で取り組む必要があります。ぜひ、現場における『言える化』『見える化』を進めていってください」
「自分が感じているモヤモヤは、気のせいではなかった」「モヤモヤを言ってみても良いんだな」参加者にはそんな安心感も得られたようです。次回はいよいよ、“本当の”働き方改革とは何かという本質に迫っていきます!
★ご案内★
詳細のご確認やお申し込みは、ミライの働き方ホームページをご覧ください。